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ホンダが実用化した世界初の自動運転“レベル3”その産みの親に迫る!

経歴とプロフィール

四竈真人

株式会社本田技術研究所AD/ADAS研究開発室 シニアチーフエンジニア/室長。 東京大学卒業後、院進。院ではエンジンを専門とし、その後本田技術研究所に就職。ロサンゼルスに駐在し市場問題の解析、帰国後はハイブリッドシステムの技術開発等を担当し現在は運転支援・自動運転技術の開発に携わっている。

事業内容

株式会社本田技術研究所

本田技研工業株式会社(Honda)の研究開発機関。技術者一人ひとりの個性が尊重される環境で、安心安全な交通を実現するために必要な自動運転・運転アシスト技術や、高性能・高品質かつ環境への負荷も考慮したエンジンの革新的な技術の開発に加え、人々の暮らしや仕事をよりよくするパワープロダクツ製品づくりなどの幅広い領域で常に独創的な技術や商品の開発を行っている。

大学時代からホンダ入社まで

 

──今回の記事は学生から就活生といった若い世代に向けたものとさせていただく予定なのですが……まず、四竈さんの学生時代について伺ってもよろしいですか?
 

ひたすらバンドと麻雀に明け暮れていました。大学院に入って研究を始めてからも、研究室に寝泊まりしつつバンドは続けていましたね。

もともとバンドで生きていこうと思っていたんですが、あるとき就職した方が良いんじゃない?とアドバイスをもらってホンダに入りました。研究室時代はディーゼルエンジンを専門にしていたんですが、知識を入れるというよりも思考力を鍛えるようにしていましたね。

 
──それはなぜでしょうか?
 

学生のうちは専門性を身に着けるより、もっと基礎的なスキルを身に着けた方が良いと思うんですよ。

考察の仕方とか、ストーリーの付け方とか……自分自身、そういったスキルを高めようとしていたし、会社に入ってから19、20年目になりますが、それは今でも役立っていると思います。

 
──その必要性や重要性に気づいたきっかけはなんだったのでしょうか?
 

高校生のころからそういう気質で……たとえば受験に関しても、公式や解法をただ覚えて、というような周囲のやり方に違和感を覚えていたんですよね。なので、そういった一般的な受験勉強はせず、何ヶ月もひたすら一つの難問に取り組み続けていたりしていました。

それと、大学に入ってから先生と自分の考察力の差にショックを受けたというのも大きいです。自分で考察をした後、先生のところに持っていくと導き出される考察に十倍くらいの差があって。同じ実験データを扱っているはずなんですけどね。

 
──なるほど。そのスキルが現在も活かされているんですね。就職先としてホンダを選んだ動機はなんだったのでしょうか?
 

当時、うちの大学に色々な企業から声掛けが立ち代わり来ていたんです。それで、寿司や焼肉を毎晩食べさせてもらえるような豪勢な時期があったんですよ。ただし、ホンダだけはそういったアプローチが一切無くて。

それでまず興味を持ちました。あと、ホンダって個人の能力がすごい猛者がたくさんいるイメージだったんですね。それで、面白そうだなと思って入りました。実際、その期待は裏切られなかったです。

 
──入社後、「この人すごいなぁ」と思ったエピソードを聞かせていただきたいです。
   

入社当時のマネージャーがそうでした。入っていきなり結構難しいことを任されてしまい、初めは全くできなかったんですよ。3ヶ月くらいは何も出てこなかったんですが、そのうちにこうすれば良いのでは !?というのがバッと思いついて。

ただ、何も浮かばなかった3ヶ月の間、進捗なんかを誰も確認してこないし、一切まわりからの干渉がなかったんですね。それがずっと引っかかっていて……後々周囲に確認したら、マネージャーが皆に「3ヶ月したらなんとかなるから、四竈を泳がせておけ」と話していたらしいんです。

実際、その通りになったわけで……。その嗅覚の凄さというか、スキルの把握力、判断力はすごいなぁと思いました。

   
──ホンダの技術開発って、どういった環境なんでしょうか?

基本的に失敗を責めることがないですね。失敗自体を責めることはなくて、失敗したところからどうする?という部分を求めていくスタイルです。そこからどうするかが全て。失敗したときに伸びることもあるし、失敗しないようにしろというのがないんですね。

レベル3への道

   
──ホンダが世界で初めて実用化した「レベル3の自動運転」もそんな開発環境で生まれてきたんですね。この技術について詳しく聞かせて頂きたいのですが……一般的に車の自動運転にはレベル1~5まであるとされていますよね。レベル3というのは具体的にどのような段階なのでしょうか?
       

そもそも、レベル1~2は正確に言うと「自動運転」ではないんです。CMなんかでよく見る「運転中にハンドルから手を離せる」とかのことですね。運転中に、手ではなくて目を離せるようになってはじめて自動運転なんです。それを可能にしたのがレベル3であり、そこには技術的に雲泥の差があります。


──なるほど。世界初の技術を実用化するというのはかなり困難な道だったかと思うのですが、特に難しかったことはなんだったのでしょうか?
    

認可取得がかなり大変でしたね。どこにも前例がないので、当然、どうすれば売っていいのか、という基準が何もないんですよね。

だから自分たちで安全論証を何度も重ねたり、実用化に必要な条件を無の状態から作り上げて一つ一つクリアしていかなくてはいけない。その上で、社内からも社外からもあらゆるオーソライズを取る必要がありました。

   
──たしかに運転技術の自動化は業界全体の課題ですよね。その中で、ホンダならではの自動運転に対する目的意識、というようなものはありますか?
    

「自動運転=楽をするための技術」みたいなイメージもあると思うんですが、我々にとって自動運転は「事故を減らすための技術」なんですよね。事故を減らせば、事故にあった人も事故を起こした人も救えるし、その周囲の家族や友人も救える。一つの事故を減らすだけでたくさんの人を救えるんですよ。そこには大義があるし、メーカーとしての責務もある。

そういった思いで自動運転技術の開発に取り組んでいます。なので、自動運転の”ぶつからない技術”をどんどん普及させていく必要があるんです。広く乗られる車に自動運転の“ぶつからない技術”が搭載されて初めて「事故を減らす」という大義を実現できると思います

    
──この先、自動運転車を普及させていくにあたって一番課題になってくるのは、やはりコストなのでしょうか?
   

たしかにコストは課題なんですが、そこは鶏と卵みたいなもので。たくさん作ればコストは下がるんですよね(笑) とはいえ、システムの最適化をはかっていければコストは下がるし、一度実用化したのでノウハウはできている、その点はここから普及させていく上で大きいですね。

   
──ありがとうございます。現在レベル3までの実用化を達成したわけですが……レベル4やレベル5への展望はどうなっているのでしょうか?
     

それがですね、我々もレベル3に到達するまでは数字にこだわっていたんですよ。「まず3を実現するぞ!」「次は4だ!」「5だ!」という感じで。でも3を実用化してみてわかったんですが、数字に意味はないんです。大事なのは数字ではなくて、お客さんにとっての価値なんですよね。

数字にこだわるとそこを見誤る。たとえばレベル4の車ができたとしても、運転中にレベル4の機能が使える時間が1分しかないとしたら?確かにその車はレベル4を実用化した車ではありますが、価値がないですよね。

それよりは1時間、レベル2のハンズフリーにできる方がお客さんにとっては価値がある。今の例は極端ですが、数字にこだわるとそういった本末転倒なことになってしまうことがあるだろうと今は考えています。

レベル3をこれから突き詰めていくことにはなりますし、その結果としてレベル4になることはあると思いますけどね。

自動運転は末来をどのように変えるか

    
──ここからは少し、自動運転技術が発展し浸透した未来についていくつか質問させていただきたいと思います。身近なところでは、運転免許関係も色々変化があるのではないかと思うのですが、そこはどうなのでしょうか?
    

安全性の高い自動運転車であれば、免許を返納しなくてはいけないような高齢者でも運転できるのではないか、という議論はあったりしますね。他にも自動車保険であったりとか、そういった場面で安全性の高い自動運転車が優遇されるようになるというような変化はあるかもしれません

    
──自動運転技術の発展した先では「運転の楽しさ」はどうなっていくのでしょうか?
    

まぁ、自動運転車だとしても好きな時に運転すれば良いんですよ。自動運転は運転を奪うものではないですから。ただ、どんな運転好きでも運転したくない時はあるし、そういう時に選択ができるようにしたい。運転したくない時はともすれば運転を間違えやすいときでもありますし。

   
──なるほど……近年、「若者の車離れ」というようなことが言われていますよね。自動運転の発展、車そのものの大きな変化に伴って、そこに関する変化はあると思いますか?
     

実際、車離れってしてるんですかね?たしかに巷では言われていると思いますけど。

    
──免許の取得は多くの若者がしているし、実用的なものとして車と接することはあるかと思います。ただ、昔のように「若者の憧れ」としての存在感は薄い気がしますね。
    

今もそういう面はあると思うんだけど、自分が学生時代の車って、終電を気にせずに遊べるとか、ドライブに使えるとか、単純な移動手段以外の「車のおかげで出来ること」の価値が高くて。自動運転も同じように、車に新しい付加価値を与えられると思うんです。車が勝手に運転してくれる、じゃあ車内でどう過ごそうかってことになりますよね。

そこには色々な娯楽の可能性が広がっている。それと、目的地がすごく近くなるんですよ。たとえば栃木から東京行くとなると2時間くらいかかってちょっと面倒なんですが、自動運転だと相当近く感じますよ。心理的な距離感が変わるんですね。

それに疲れない。必然的にアクティブになるでしょうね。普通だったら行かないようなところでも足が向くと思います。


──移動時間の価値が大きく変わるんですね。
   

そうですね、そこは今までとの差が出ると思います。

    
──変化ということでお伺いしたいんですが、レベル3の実用化というのは、例えるならガラケーがスマホに変わったような革新的な変化なのでしょうか?
    

スマホに切り替わっていく第一歩くらいにはなったと思います。 ただ、よく「なんでホンダが世界初にできたんだ?」っていうことを聞かれるんですよ。確かにホンダは業界の中でも周回遅れだと思われていた。ではなぜ世界初になったのか。

これ、肝は開発の順番だと思うんですよね。我々はまず事故を減らしたい、安全でありたいというところがモチベーションになっているので、車の安全性や信頼性の検討を先にやったんです。で、あとから制御の部分、アプリケーションをあとからやっている。

だから最初、ホンダの車はろくすっぽ走れなかった。ホンダはデモカーの出来栄えでは4,5周遅れていた。でもそれでいいと思っていました。信頼性をちゃんとして、その上で後からアプリケーションを作ればよいと思っていたからです。

この、信頼性を作るというのはすごく時間のかかる話で、ここを後回しにすると何度もやり直しが必要になってどんどん遅れて行っちゃう。信頼性をやり直すと大きな手戻りになってしまうのだけど、我々としてはその手戻りがなかったというのが早く世に出せたポイントだと思いますね。

    
──では、まず安全性や信頼性を最優先にしたという部分が大きかったんですね。その部分を高めたいというモチベーションが勝因だったんだと。
   

そうですね。そのメンタリティはたぶん、ホンダ独自の企業文化だと思うんですよ。ホンダが作るすべての車には、愚直に安全さを求めるという思想が貫かれているんじゃないでしょうか。

    
──レベル3の開発の際、認可の取得過程でかなり苦労したというお話を先ほど伺ったと思いますが、嬉しかった瞬間についても聞かせていただきたいです。
   

そうですね……そもそも、認可取得も苦労した以上に面白かったんですよね。それ以外にも小さな喜びは随所にあったし、もちろん認可が取れた時もすごく嬉しかった。でも、一番嬉しかったのは若者たちの成長です。

最初、うちのチームは入社歴の浅い若者だらけで、素人集団とか言われていたんですよ。でも実際その通りで……彼らと接する中で、これは経験が足りなさすぎるなぁと思うこともありました。けれど一年経ち、二年経つうちに彼らはものすごい勢いで成長していったんです。

さっき言ったとおり、前例のないものに取り組んでいたのですべて自分たちで考えるしかなかったんですよ。だからこそ成長していった。新人にはマニュアルが用意されていて、それに従って仕事を進めていくと思うんです。でもうちはそうじゃなかった。

何からやれば良いのか、どうなったらダメなのか、完成したものに問題はないのか、ずっと考えていくしかない。 そういう中で「あんなことを言っていたあいつがここまで成長したか…… !」と感慨深く思うことが一人一人あって、これから先の開発もこのメンバーだったらいけるじゃないか、という自信が出てきた。それが一番嬉しかったですね。

   
──四竈さんが若い人材に求める資質はなんでしょうか?
   

テストの点が良いだけの人じゃなくて、考えられる人というか、いろんな物事になぜ?なぜ?なぜ?と考えていける人ですかね。

それと、諦めず粘り強くある人。これってどうしようもねぇな……ってことは確かにあるんだけど、そこでもう一踏ん張りできると大抵もう一段階先が見えてくるんです。そこで踏ん張れる人材が欲しいです。

   
──四竈さん自身、技術者として出発した当時はどういった思いを抱えていたのでしょうか?
   

仕事をする際って、一つの技術を深堀りするスペシャリストになるか、広くそれなりに知っているジェネラリストになるかで大きく分かれると思うんですね。でも自分はどちらでもなくて、「めちゃくちゃよく知っている素人」でありたかったんですよ。

知識は当然必要なんですが、よく知っていると視野は狭まっていくし、応用がきかなくなっていく。発想が絞られちゃうんですよね。なので、知識は溜め込んで、かつその縛りを受けないようにしたかった。

   
──ありがとうございます。では、今の若い世代についてなにか思っていることはありますか?
  

頭が良いですね。私は普段、色々偉そうなことを言ってますけど、心の中ではお前ら本当頭良いな!かなわねぇなこれ、といつも思っているんですよ。その頭を使い続ける精神力や粘り強さが備わると、本当にすごい戦力になってくるんだろうなと考えています。

  
──日々一緒に働いている中で感じるんですね。
    

そうですね。それと、若い人は成長曲線が立っていることが大事だと思うんですよね。大学はあくまで準備体操、会社に入ってからがスタートであって、その後の長い社会人生活ではその成長曲線が大事になってくる。で、その前の準備体操の時に、成長曲線の傾きをどれだけ立てておくかが大事だと思うんですよね。


──若い世代は社会に出る前に成長曲線を立てて、素地を作っておいた方が良いと。
   

それと、準備体操の時点で怪我しないようにねと。本番はまだこれからなので

   
──では、四竈さんがこれからどういう技術者になっていきたいかという展望を聞かせていただきたいです。
 

自分が仕事をするモチベーションを振り返ると、入社当時は会社の中で困った人がいたら助けたい、というような小さいスケールだったんです。

それが30代半ばになったらお客さんを困らせたくない、笑顔が見たいというのが加わって。そして今では、社会をより良くしたいというところまで広がっています。仕事自体の捉え方も「車を作る」ではなく「社会を作る」という風に変わってきましたね。

   
──ありがとうございます。最後に、ホンダというのがどういう場なのかということについて聞かせていただけますか?
  

凄く面白い会社ですね。入って良かったなと思うし、他ではやっていけなかったと思うし。技術について語るときに上下関係が無いんですよ。偉そうなことをこっちから言うこともあるけど、若者から噛みつかれることも多々ある。

そういう風に、技術で語り合っているときは上下関係が無いような楽しさというか、風通しの良さみたいなものがあって。若者は過ごしやすい気がしますよね。自分の入社当時のことを振り返っても、新人だった頃に出した案が採用されたりして。

当時は驚いたんだけど、自分が上の立場になるとやっぱり「たとえ新人だろうがなんだろうが良い考えは良いよな」っていう感覚になったんです。

  
──ありがとうございます……今の部分を読んだ若者も「おぉ、ホンダ良いなぁ!」ってなるんじゃ無いかなと思います。
   

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